古くて新しい技術~よみがえる冬みず田んぼ!~
冬期間も田んぼに水をはる、冬みず田んぼ(冬期湛水水田)は、江戸時代の「会津農書」(1684)の中に紹介されている古くから存在した農法です。有機成分の多い水をかけると菌類の活性と、イトミミズ、ユスリカの発生が多くなり、農業生産能力が高まりうることを経験や観察の結果として知っていたと考えられます。
近年、冬期湛水による水田の多面的機能の十分な発揮が期待され、さらに不耕起・疎植・無農薬・無肥料・魚道水路設置などを取り入れることにより、自然の再生や環境創造、生物多様性の向上、水源涵養、地球温暖化ガス抑制などに貢献する可能性が指摘されています。
また、冬の間水の張られた水田では、水田に残っている藁くずやイネ株の分解が進み、残留物は春に藻類の栄養源となり、有機物は菌類やイトミミズなどの働きで天然の堆肥となります。今、これら生物による物質生産能力を活用した、環境にやさしい農業にも注目が集まっています。
印旛沼流域(佐倉市)における冬期湛水の試み
上記のような多面的機能に着目し、「冬期湛水」に注目が集まっています。そこで、印旛沼流域水循環健全化会議より「みためし行動冬期湛水」としてバックアップをいただき、平成17年より市民・農業従事者・研究者・行政が連携をはかり、佐倉市にて冬期湛水を実施し、その有効性および実践性等を検討する目的で、県より技術的なサポートを受け、生物調査(生物多様性の確認)、水質・土壌・地耐力調査(水田の浄化機能の確認)、生育量・収量調査(稲の生育状況の確認)などをそれぞれ専門家が行っています。この取り組みにおいて、佐倉市米生産者の三門は、冬期湛水の試験実施・管理、および慣行田(比較用)の管理を行い(下図参照)、試験は平成21年まで実施しました。
これまでの調査の結果、地下水の汚染物質として知られる硝酸態窒素(NO3-N)の浄化効果が確認され、また、底生動物の増加や多数のカモ類の飛来などが確認されました。
印旛沼流域水循環健全化会議によるバックアップのもと、「みためし冬期湛水」として冬期湛水を実施し、その有効性および実践性等について検討するため、2005年に始められました。
調査内容は、生物調査(生物多様性の確認)、水質・土壌・地耐力調査(水田の浄化機能の確認)、生育量・収量調査(稲の生育状況の確認)などで、それぞれ専門家が行っています。2008年2月6日、その中間報告会がありましたので、その内容をご紹介したいと思います。
白鳥の飛来
冬期湛水を始めてから6年目の冬、平成24年(2012)2月4日7羽のコハクチョウが飛来し、日に日に数が増えて最大で100羽を超えました。
◆冬水田んぼ効果①
田んぼ生態系の底辺を担う原生生物たち-
(千葉県立中央博物館 林先生)
※大変分かりやすく、興味深い内容でした。資料より抜粋してご紹介します。
・田んぼの生きもの
田んぼで見られる生きものとして、一般にはトンボ・ヤゴなどの水生昆虫、カエル・オタマジャクシなど両生類、サギやスズメなどの鳥類がすぐに思い浮かべられる。田んぼに詳しい方には、アメンボ、イモリ、クモ、ヘビなど多様な生きものも見つかることが知られている。生産者の方には、稲を食害する害虫や雑草などの名前も多数知られている。(途中省略)
・原生生物の役割
ヤゴはオタマジャクシを食べる。オタマジャクシはミジンコを食べる。では、ミジンコは何を食べているのか?答えは、緑藻・珪藻などの原生生物や細菌類である。では、緑藻などの原生生物は何を食べているのか?その答えは、溶けている窒素やリンである。体内ももつ葉緑体を使って、太陽光を利用して光合成を行い、自ら栄養分を創り出しているため、食べるという行為ではなく窒素・リンの吸収となる。このように田んぼの生きものたちが何を餌として食べているか探っていくと、最終的に細菌、菌類、原生生物などの肉眼では見ることが難しい仲間たちにたどり着く。(途中省略)
溶存態(可溶性)の窒素・リンを吸収して固形物に変換する役割を担っているのが緑藻・珪藻などに代表される原生生物、および藍藻類(細菌)や菌類などの生物群である。すなわち、溶存態の窒素やリンを直接餌として摂取し増殖することのできないミミズ、ミジンコ、ワムシなど一般に微小動物と呼ばれる仲間たちは、原生生物の介在をもってはじめて田んぼで餌にありつけるのである。原生生物によって水に溶けていた栄養塩類が固形物に変換された後は、食物網の流れに乗って、ミミズ・ミジンコ・ワムシから更に高次捕食者であるオタマジャクシ、ヤゴ、小魚などへ物質循環がなされていく。このことから、原生生物は、細菌、菌類と共に、田んぼ生態系の底辺を担う重要な仲間であることがわかる。
・撹乱のつづく田んぼ
田んぼは、秋の収穫前から春の田起し後まで長期に落水され乾燥状態におかれる。こうした環境は、水の中を生活の場とするいきものたちにとってたいへんな試練である。水生昆虫や両生類のように田んぼの外へ移動することが可能な仲間は別として、移動性の乏しい原生生物やミジンコ類にとって、田んぼから水がなくなるというのはたいへんな生態的撹乱となる。中干しが行われることも合わせれば、一年に少なくとも2度の試練が待ち受けている。落水後の田んぼには、原生生物の多くの種類が休眠胞子(シスト)の状態で乾燥した表土中にとどまり、春の湛水を待っている。同様にミジンコやワムシについても休眠卵という乾燥に耐える特別の卵となって表土中に留まっている。(途中省略)
これまでの研究で、休眠胞子や休眠卵は乾燥状態に置かれてから時間が経過するにつれ、孵化能力の失活率が高まることが明らかにされている。これは、乾燥に耐えるとはいえ、乾燥期間が短い方が望ましいということを意味している。すなわち、秋の収穫期に落水した後、早めに湛水する「ふゆみずたんぼ」は、田起し後の春に湛水される慣行のたんぼに比較して、休眠胞子・休眠卵から生まれ来る次世代の個体数が多いことになる。ただし、これはふゆみずと慣行の田んぼの土の中に同じ量の休眠胞子や休眠卵が眠っていた場合での話である。実際には、慣行に比較してふゆみずや有機の田んぼにおいて眠っている休眠胞子や休眠卵の量が異なることが明らかになっている。
・有機と慣行
熱帯雨林と砂漠との違いは何か?気温、降水量、湿度など、さまざまな相違が数多く挙げられる。「生きもの」の多様性や生息密度(現存量)もそうした相違のひとつである。簡単に言えば、熱帯雨林には砂漠に比較して、たくさんの種類の生きものたちが密度高く生活していると言うことである。(途中省略)
田んぼに撒かれる農薬は、目的とするイネ食害生物に効能を発揮する他、田んぼ生態系の底辺を担う重要な生物群である原生生物やミジンコ・ワムシ類にも大きな影響を及ぼし、その生息密度を著しく制限している。有機農法と慣行農法の田んぼから、落水後の収穫期に同じように乾燥した表土を採取し、皿などに入れて水を満たすと、有機の田んぼの土からは次から次へとさまざまな原生生物が目覚めて、次いでこれらを捕食するワムシやミジンコまでもが湧くように生まれてくる。一方、慣行農法の田んぼからは限定的な種類がわずかに生まれてくるにすぎず、両者の差は著しく大きく、まさに熱帯雨林と砂漠の対比に相当する。
実際の慣行農法の田んぼにおいては、湛水に活用する水源から原生生物やミジンコが供給され増殖をはじめるため、全く原生生物などが存在しない状態となる訳ではない。しかしながら、湛水初期に爆発的な増殖を見せる原生生物たちの現存量の差違がこの田んぼに生活する高次捕食者全体の現存量、つまり生きものたちの豊かさに長く影響を及ぼす。(途中省略)
・原生生物は縁の下の力持ち
田んぼの水尻から流れ出る水に含まれる浮遊微生物(プランクトン)の量を有機と慣行で比べると、田んぼの浮遊微生物量に起因して前者が著しく多い。(途中省略)イモリ、カエル、ヤゴ、ヘビ、サギと、さまざまな生きものたちが芋づる式に餌の多いふゆみずや有機農法の田んぼにどんどん集まる。原生生物の担う寄せ集め効果、生物保持能は侮れない。
過剰な施肥や農薬散布は、目的とした生きもの以外にも田んぼで生活の場を同じくする生きものたちに直接・間接の影響を及ぼしている。特に原生生物のような顕微鏡でないとその姿を確認できないような小さな生きものたちについては、耕作法による影響が目に見えにくいため、ゆふみずや有機農法などの効果・影響を類推することは難しいと考えられる。しかし、こうした田んぼ生態系の底辺を担っている小さな生きものたちの挙動が、捕食者である水生昆虫、オタマジャクシをはじめとした多くの生きものたちに影響を及ぼし、田んぼの生きもの全体の質・量を左右しており、最終的には稲作そのものにも波及している事実を忘れてはならない。ふゆみずによる落水期間の短縮が湛水を待っている原生生物にいかに歓迎されているか、農薬散布で痛めつけられ散々な目に遭っている原生生物たちが有機農法にどれだけ救われているか、田んぼの生きもの全体量の多寡が全てを物語っている。
田んぼの生きものたち、その多様で複雑な相互関係を思い描く際、たくさん生活しているのに目に触れる機会がない原生生物が、田んぼの中を縦横無尽に泳ぎ回っており、田んぼの生態系の底辺を担っているという事実に想いを馳せていただきたい。
----(以上、資料より)
米の買取が保障されていたかつては、生産性ばかり気にしていましたが、今となっては、環境への配慮ばかりでなく、コスト削減の点からも、むやみに施肥や農薬使用をすることはなくなりました。それが、原生生物といった田んぼの生きものにとって良いということが良く分かりました。ひいては、私たちの生活環境にも、少なからずよい影響をおよぼすに違いありません。
◆冬水田んぼ効果②
冬期湛水前後の水田内の生物相の比較
-底生動物(水生生物を中心に)-(千葉県立中央博物館 倉西先生)
※報告書より、抜粋してご紹介します。
調査方法:実験区(2006年1月から冬期湛水開始)と比較区(慣行水田)において、水生動物を中心とした大型無脊椎動物を定量的に採集。表層サンプルとコアサンプル(深さ約10cmまで)の2種類をそれぞれ6サンプルずつ採集し、中に含まれる生物を抽出、同定。調査は、2005年8月、2005年11月、2006年5月、2007年4月に実施。
調査結果:実験区と比較区で確認された水生動物を中心とした大型無脊椎動物は、以下の20タクサ(分類群)であった。
(1)マルタニシ (2)サカマキガイ (3)ヒメモノアラガイ (4)ドブシジミ (5)イトミミズの仲間 (6)エラミミズ属の一種 (7)イシビル科の一種 (8)クモの仲間 (9)トビムシの仲間 (10)オオコオイムシ (11)マルガタゲンゴロウ (12)ヒメゲンゴロウ (13)トゲバゴマフガムシ (14)ゴマフガムシ属の一種 (15)コガシラミズムシ (16)ハネカクシの仲間 (17)ガガンボ科 (18)ユスリカの仲間 (19)ミズアブ科の一種 (20)アリの仲間
2005年8月13日-水田は稲刈り前で、水がほとんどない状態であった。実験区(冬期湛水実施予定区)では、8タクサ120個体、比較区では5タクサ25個体であった。実験区では、サカマキガイが超優占種で全体の83%を占めていた。ドブシジミが少数採集された。自然度の高い水田にしか出現しないとされるマルガタゲンゴロウが1個体記録された。比較区は実験区に比べ出現タクサ数、個体数ともに少なかった。実験区で超優占していたサカマキガイが全く採集されていなかった。
2005年11月13日-水田は稲刈り後ではあったが、数日前の降雨により水田内には水たまりが見られた。実験区(冬期湛水実施予定区)では9タクサ55個体、比較区では7タクサ15個体であった。実験区では、8月に優占していたヒメモノアラガイが少なくなり、それに対してイトミミズの仲間が増加する傾向にあった。イトミミズは、水田内に広く分布するわけではなく、局在する傾向にあり全個体数の38%を占めた。土壌のコアサンプル内の生物は極めて少なく2タクサ2個体のみであった。比較区は、実験区に較べ8月同様、タクサ数、個体数ともに少なかった。前回採集されていたイトミミズの仲間が極めて僅かしか採集されていなかった。
2006年5月21日-田植えの後の水をはった水田であった。冬期湛水を行った実験区ではイトミミズの仲間が大量に出現した。前回は局在する傾向にあったがほとんどすべての地点で見出された。実験区の2サンプルでは、それぞれ80頭、270等と超優占した。比較区でもやはりイトミミズの仲間が優占する傾向にあった。ドブシジミも出現した。冬期湛水を行った後、5月の水田ではイトミミズの仲間の個体数が急激に増加していた。これは比較区と較べても明らかであった。
2007年4月26日-水田は、田植え前の状態であった。実験区には、水が張られた状態であった。比較区は、数日前の降雨の影響で表面にはところどころ水溜まりがあったが全体にやや乾燥した印象であった。実験区の中にトウキョウダルマガエルを2個体見つけた。ユスリカの仲間が多く、表層のサンプルを採集する時に泥の中から水中に飛び出す個体がいた。ユスリカは、その多くが終令個体で、蛹も多数含まれていた。ユスリカは、昨年にはほとんど採集されていない。昨年同時期と比較してイトミミズが著しく優占することはなかった。それに対し、昨年は目立たなかった(イトミミズの仲間に含めて計数していた)エラミミズの一種が多く採集される傾向にあり、今後の動態が注目される。比較区は、底生動物として採集される生物はきわめて少なかった。
----(以上、報告資料より)
もともと比較区のほうが、生物個体が少ない傾向にあり、実験区と比較区で比べるのは難しそうではありますが、実験区で、冬期湛水実施前と、実施後で変化が見られ、とても興味深いです。エラミミズの動態に今後注目したいと思います。また、落水期は(2005年11月の結果から)、やはり土壌中の水生生物が減っているということがよく分かりました。
◆冬水田んぼ効果③
印旛沼とその周辺水田の鳥類
(2005年8月~2007年12月)生物調査班
※報告書より抜粋してご紹介します。
調査方法:
(1)実験区-冬期湛水田、(2)比較区-慣行田、(3)萩山新田(実験区と比較区を含む地帯)、(4)西部調整池(調査水田に隣接する印旛沼に生息する鳥類が水田へ飛来し調査地の鳥類相を反映していると考えられるため)に分けて、以下の方法にて調査。
①水田は幹線道路から中央排水路に向かって歩きながら、調査地の地上および上空通過した種を全て記録した。
②印旛沼は、岸から約100mの幅を調査対象の水域、対象水域を外れた水面及び沼隣接地の見渡せる範囲内の種を全て記録した。
③夜間は同じ地点をサーチライトで照らして、目視と鳴き声及び羽音などにより、種を識別し記録した。しかし、なかなか定量的な把握が難しい。夕方湛水田に入るところをカウントしてみたが、暗くなってしまうとわからなくなる。結局21時以降サーチライトを照らしながらゆっくり近づき飛び立つ鳥をライトで追い、鳴き声と羽音によって概略の数を把握した。
調査結果:
印旛沼水面-カワウ、カイツブリ、カルガモはほぼ毎回観察された。冬場はコガモが多かった。2006年2月にはオシドリも観察された。その他カモメ類、ミサゴ、トビ、チュウヒなどが記録されたが数は多くなかった。
湛水田-
①昼間:カルガモは上空を通過することがあるが、湛水した水面にも降りなかった。2007年1月31日にはタゲリが現れた。周辺田んぼにも一部水が溜まっているところがあり、そこにもいたが、湛水田にも降り、上空通過も含めると32羽になった。タシギは湛水しても田に降りる。しかし水深が10cmの時は観察されなかった。ヒバリは湛水すると田には入らず、畦と上空を飛ぶだけになるため慣行田に比べ少ない。
②夜間および夕方:2006年11月は、夕方湛水田のそばで田に入ってくるカモを観察。カモは湛水田に次々に入り、12羽カウントできた。慣行田にはまったく入らず、湛水田の隣の少し水が溜まった田には2羽入った。1月は湛水田だけタシギが23羽いた。3月は夜間湛水田のみカルガモが37羽カウントできた。4月は2羽の羽音が聞かれたのみであった。2007年9月夜、水の入っていない湛水田からコガモが6羽飛び立った。乾燥田でカモが観察されたのは初めて。まだ刈られていない稲が倒れていたので、恐らくそれを食べていたのであろう。10月の夜間観察の時は、昼から水を入れ始めたばかりだったが、20羽ぐらいの群れが2群。5羽ぐらいの群れが6群飛び立った。中央排水路でも30羽程度のカモが飛び立つのが確認できた。11月は26羽と減った。2006年2月の例でも注水直後はかなり湛水田に入るが、その後は減少する傾向にある。
慣行田-昼も夕方も夜もカモは降りなかった。夜記録されたのは、ゴイサギ、ムナグロ、タシギでゴイサギは上空通過、タシギも湛水田に比べ数は少ない。昼はタシギ、ヒバリが飛び立つのが観察された。ヒバリは淡水田に比べ多い。
考察:
・湛水効果はきわめて顕著に現れ、多数のカモ類が湛水田に飛来した。しかし気象条件が影響するのか、他の要因か湛水後必ずカモが湛水田に来ているとは限らない。湛水直後が多いのは3シーズン共通しているがその後田に入る数にはバラつきがある。
・2007年も散弾銃の薬きょうが落ちていた。せめて周辺だけでも狩猟禁止にしないと、湛水効果も半減するのではないか。
・2008年1月の昼間湛水田の畦にイタチを確認できた。水辺の好きなイタチが湛水田で確認できたのは単なる偶然ではないかもしれない。
・慣行田ではカモは全く飛来せず、周辺田んぼで水が溜まっているような場所では数は少ないが、カモが確認できた。
----(以上、報告資料より)
実に大変な調査を実施くださっています。おかげで、田んぼに水を張ったことにより、カモ類が飛来するようになったことが明らかになりました。ふゆみず田んぼを始めるために水を張った直後に飛来数が増えるという点は、大変興味深いです。餌となる水生生物がすぐに増えるという事はないでしょうから、何を狙って来るのでしょうか。来年は、夕方に観察してみたいと思います。
◆冬水田んぼ効果④
水質調査(2006年3月~2007年12月)
(技術指導:小倉氏、市民ボランティア)
※報告書より抜粋してご紹介します。
調査方法:図に示した地点における、地下水位および地下水水質を室内分析、現地調査、パックテストにより調査。
調査結果:
(1)地下水質の縦断変化(マクロ的)
稲刈り後の冬期湛水田にも慣行田にも水が張っていない状況である2007年9月末と冬期湛水田に水を張っている2007年12月についてNO3-Nの縦断変化を検討した。
・9月は、どちらの水田にも水が張っていない状況であるため、特に、冬期湛水田のNo.3調査地点の濃度が高くなっている。また、湧水地点の濃度が台地上の井戸の濃度の5倍程度高い濃度を示していた。(恐らく、台地上の畑の施肥などが関係しているものと考えられる。)
・12月は、冬期湛水田には水が張ってあるが、慣行田は水がない状況である。この日の調査結果では、どちらの田もNO3-Nはほぼ0mg/lであった。また、湧水地点の濃度は5mg/l程度であったが、台地上の井戸水は15mg/lと高い濃度を示していた。
(2)水田の状況(作業時期)と水質の関係
水田の状態(冬期湛水、かんがい期、稲刈り期など)及びその時の作業時期(代かき、田植え、稲刈りなど)と水質の関係を検討した。台地上と湧水の水質は水田の作業時期とは関係がない。ここでは、台地上の畑の状況(施肥時期など)が関係しているものと考えられる。水田や河川水の水質は、水田の作業時期と関係しているようである。
<冬期湛水田と慣行田の関係>
・冬期湛水中は特に、慣行田より冬期湛水田のほうがNO3-Nが低くなっている。
・1年目(2006年1月~4月)に比べ、2年目(2006年11月~2007年4月)のほうが、冬期湛水田のNO3-Nが低くなっている。
・かんがい期においても、慣行田より冬期湛水田の方がNO3-Nが低くなっている。
・稲刈り後は、冬期湛水田もかんがい期に比べ高い濃度となっている。
・以上の結果より、かんがい期は稲と水張りによる還元土壌の影響でNO3-Nの浄化能力が最も高くなること、また冬期湛水中は水張りによる土壌の還元化によりNO3-Nの浄化能力が高くなるものと考えられる。
<冬期湛水田と田面水、河川水の関係>
・河川水と冬期湛水田のNO3-Nの挙動はほぼ同じ傾向を示している。
・田面水のNO3-Nはどの時期もほぼ0mg/lである。
<NH4-Nと水田の状況との関係>
・ほとんどの時期で、冬期湛水田のほうが、慣行田よりNH4-Nが高くなっている。
(3)水田の浄化能力(NO3-N)の試算
(1)、(2)の水質調査結果から、水田はNO3-Nの浄化機能を有していることが確認された。ここでは、浄化能力の試算を試みた。(透水計数など、浄化能力の算出に必要ないくつかの定数が未定なため一般的な定数を用いた。)
試算範囲は中央排水路から台地上の井戸No.14までの約1000m、幅は冬期湛水田と慣行水田を合わせた200mとした。以下に試算の計算過程と試算結果を示す。
・冬期湛水調査範囲(崖下~中央排水路 200m×500m=10ha)のNO3-Nの浄化能力は、229.5g/dayとなった。
・印旛沼流域全体(7382ha)で冬期湛水を実施した場合のNO3-Nの浄化能力は、169,423g/day。これは、印旛沼総水田負荷量の74%、印旛沼総負荷量の5%に相当する浄化量となった。
■地下水位の推移
①冬期湛水田および慣行田ともに、稲刈り後(9/28)の地下水位が最も低くなっている。(No.10,11除く)
②全期間を通して、冬期湛水田のほうが、慣行田より地価水位が高くなっている。(0.3m~0.6m)特にNo.3(農道側)の水位が高い。(No.3~7)
③湧水の地価水位は、全期間ともほぼ一定である。(約TP+3.95m)
④冬期湛水田、慣行田(対照区)の地下水位は、湧水地点の地下水位に比べ3mから4m低くなっている。